第7回 地域医療構想とは

第7回 地域医療構想とは

日本の財政は今、「大赤字」である。

「大赤字」の主な原因は、社会保障費の高騰である。

日本の社会保障は今後、その規模「縮小」を余儀なくされている。

「地域医療構想」と「働き方改革」は、

「国にはもうお金がないので」、

「地域でまとまって、医療効率を上げてください」というものである。

具体的に、

「病床」と「医師」の再配置を2024年~2025年までに実施するよう、

期限が設定されている。

ここで、「地域医療構想」とは何か、について、

基本的な部分は、医療現場の職員が知っておくべきと思うので、

以下に、私の知っていることを書かせていただく。

地域医療構想への経緯

国の財政が危機的状況であることを、医療者こそ正しく認識する必要がある。

さかのぼって、2011年(平成23年)。

当時から、社会保障費の高騰による、

国家財政の行き詰まりが、問題となっていていた。

そのために国は、『社会保障・税一体改革』を打ちだした。

ここでいう「税」とは、消費増税のことである。

与党の民主党と、野党の自民公明で、3党合意が行われた。

消費税を当時の5%から最終的に10%に引き上げるという合意であった。

ここで、「増税」して、得られたお金を充てて、

「社会保障」を、具体的にどう変えてゆくのか、という議論が行われ、

その結論として、数年前から温められていた「2025年ビジョン」が出された。

この「2025年ビジョン」が、「地域医療構想」の原型である。

その後、安倍政権になり、

2013年に「社会保障改革プログラム法(通称、プログラム法)」が成立した。

これは、「2025年ビジョン」に則った、未来の法律改定への行程表である。

この「プログラム法」に沿って、

2014年に、有名な「医療介護総合確保推進法」という法律が制定され、

ここに「地域医療構想」が盛り込まれた。

地域医療構想の内容

地域医療構想は、2025年の「必要病床数」を4つの病床カテゴリーごとに推計し、現状とのギャップを「地域で話し合いながら」埋めて行こうという政策である。

地域医療構想では、都道府県の「二次医療圏」ごとに、

2025年の医療需要と、病床の必要量を推計した。

同時に、2014年から、どの病院も、病棟別に、

「高度急性期」、「急性期」、「回復期」、「慢性期」の、

4つの「病床機能」を選択し、都道府県に報告することとなった。

これを「病床機能」の報告制度という。

この「病床機能」の報告結果と、

2025年の病床必要量(推計)を照らし合わせるわけだが、

そこには大きなギャップが生じるはずである。

そのギャップを2025年に向けて埋めてゆこう、というのが地域医療構想である。

このギャップの調整は、二次医療圏ごとに、

「地域医療構想調整会議」というのを設けて、ここで調整することとなった。

「2025年の必要病床数」の推計方法であるが、

詳しくは「地域医療構想策定ガイドライン」に載っているが、少し説明する。

図1
出典:第5回地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会 参考資料1
出典:第5回地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会 参考資料1 

図1は、全国のDPC病院で得られたデータから、

縦軸を、医療資源の投入量(=保険点数)、

横軸を、入院日数、

として、

入院患者数の多い疾患を「255疾患」選んでプロットしたものである。

例えば「脳梗塞(JCS30以上)」であれば、

全国の「脳梗塞(JCS30以上)」の患者の中央値で、1本の折れ線を作っている。

「脳梗塞(JCS30以上)」も含めた、

トータル255疾患の折れ線を、重ねて描いたものが、図1である。

図1を眺めると、ほとんどの疾患が、

入院早期に保険点数が高く、入院後期に保険点数が低い。ことがわかる。

このことから、

保険点数が3000点以上を「高度急性期」、

600点から3000点を「急性期」、

225点から600点を「回復期」、

225点以下を「慢性期」、

と定義した。

そして、この4つの「病床機能」ごとの、

2013年の患者数に、「2025年の人口構成の推計」を掛け合わせて、

2025年の患者数を計算した。

さらに、それを一定の「病床利用率」で割り戻して、

最終的に、「2025年の必要病床数」を推計した、というわけである。

ところで、「2025年」というのはどういう年か。

高齢化がピークに達する年ではない。

2025年は、団塊世代が皆75歳以上の後期高齢者になる年であり、

医療や介護サービスに対するニーズが、質量両面で大きく変化することが予想される。

ちなみに、高齢化(65歳以上の人口)のピークは「2040年」である。

図2は、総和としての全国データである。

(a)が、2013年のデータ。

当時は「一般病床」と「療養病床」しか区分がなかった。

(b)が、2014年に初めて行われた、4つの「病床機能」報告結果。

全病院の2014年現在の状況を反映している。

(c)が、「2025年の必要病床数の推計」。

図2
出典:平成27年6月15日 医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会
出典:平成27年6月15日 医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会

まず、(b)2014年の現状報告と、(c)2025年の推計を、比較する。

まず、もとの「一般病床」は、

「高度急性期」、「急性期」、「回復期」の3つに分けられるが、

前2者は減少し、「回復期」がかなり増加する。

(回復期:11万床→37.5万床)

現在の「急性期が過剰」と言われる状況から、

「回復期」を充足させましょう、という「移行」が求めれていることがわかる。

そして、

もともと「療養病床」と呼ばれた「慢性期病床」は、

35.2万床から24.2万床に減少する。

ん?「慢性期」を減らして良いのか?という疑問がわくが、

ここは、(d)の赤ボックスが重要である。

赤ボックスは、約30万床に相当し、

介護施設や高齢者住宅を含めた「在宅医療」で対応する患者数である。

つまり、慢性期の療養病床は、単に減らすだけではなく、

新たな在宅のニーズに対応できるように、

医療資源を転換してください、ということを意味している。

病院から地域へ、という意味である。

この転換先の重要な選択肢として、「介護医療院」というのが制度化された。

次に、(a)2013年の報告と、(c)2025年の推計結果を比較する。

それを都道府県単位でみたのが次の図3。

図3
出典:全国構成労働関係部局長会議資料(厚生分科会)
出典:全国構成労働関係部局長会議資料(厚生分科会)

図3は、

上に向かって、各都道府県に2本の柱が立っている。

左の柱が、2013年の既存の病床数。

右の柱が、2025年における必要病床数の推計結果。

これをみると、

将来、病床が不足する地域は、

首都圏の一都三県、大阪、沖縄(人口増加している)のみで、

将来、病床が過剰となる地域は、上記以外のすべての道府県となる。

トータルすると、今後の人口減少社会で、

全国的には、今の病床数を維持していくことはできない、ということがわかる。

また、下に向かって緑色の柱がある。

これは、介護施設や高齢者住宅を含めた在宅医療で対応するべき部分である。

つまり、地域医療構想というのは、

単に上の柱(病床数や病床機能)のアンバランスを調整するだけではなくて、

下の柱(新たな在宅のニーズ)に対応する、

この二つのことを同時にやっていこうというものである。

これらが、まさに「2025年ビジョン」の発想である。

地域医療構想の現状と今後

地域医療構想は、今後「医師の働き方改革」に牽引される形で実行されるだろう。また、「新専門医制度」とリンクさせ、地域で若い医師を「育成」できれば、地域医療に血が通うだろう。

地方都市は、公立・公的病院が多く、

国のガバナンスが効きやすいうえ、

すでに需要と供給のミスマッチが顕在化しているため、

病院間の再編統合のニュース等も、頻繁に飛び込んでくる。

しかし、民間病院が多い都市部では、図4に示すように、

図4
2019年6月財政制度等審議議会資料

民間病院の7割近くが議論(検討)を始めてすらいないのが現状のようである。

そもそも、

「地域医療構想調整会議」のメンバーは、

民間を含む病院の院長先生、医師会長先生など、利害関係のあるもの同志である。

医療機関が自主的に病床を「変更」あるいは「返上」するという、

「ソフトランディング」型の政策が、どこまで、実際に機能するのか、甚だ疑問だ。

最終的には、

会議の設置者である自治体から、

具体的な「病床再編要請」があるだろうし、

厚労省は、都道府県知事の権限強化で改革を進める、とは言っている。

しかし、住民のみなさんの意見も重要であることなどから、

知事や自治体を含めたどのステークホルダーも、

どうしても、最初の一歩を踏み出すのに躊躇して、当然だと思う。

しかしながら、

ここへきて、「医師の働き方改革」がものすごく大きく影響しそうである。

「医師の働き方改革」は法制化されたので、「ソフトランディング」では済まない。

この法制化により、地域は確実に医師のマンパワーが失うため、

2024年までには、その再配置を実行しなければならないであろう。

結果、「医師の働き方改革」が引っ張る格好で、

「地域医療構想」も具体的に進むのではないか、と私は思う。

「地域医療構想」は「病床」の再配置である。

このことが、いまいち、掴みどころ無い部分でもあった。

その点、「医師の働き方改革」は、

医師やコメディカルといった「人」の協力、協調、そして再配置であるので、

私たち当事者にとって、とてもわかりやすい。

まず「医者をどこに置くか」、そして「病床」をどうするか。

この流れで、「地域医療構想」を考えると、

実質的な検討に入ることができるような気がする。

ブログ第4回第5回で述べてきたように、

日本の「経済破綻」、および「医療制度破綻」というのは、もう近くに見えている。

それに対して、医療提供者側の自助努力で、

「地域でまとまって」「医療効率を改善する」まで、

あと数年間の猶予なのだと、いろいろ見聞きすればするほど、そう思う。

医療現場にいると、

働いても働いても収益が上がらない現実、

そして、その割には「働いきすぎてはだめ」と指導される現実。

これらの不合理性を、合理的に解決するには、

「地域でまとまって」「医療効率を改善する」以外に、私は考えられない。

さらに私見を加えると、

「新専門医制度」を忘れてはいけない。

私は、

「地域医療構想」

「医師の働き方改革」

「新専門医制度」

以上3つをセットで考えている。

ブログ第2回で少し書いたが、

新専門医制度は、まさに「医療の地域への移行」の「はじまり」として、

当時の私には突き刺さった。

病院として生き残るために、

ダウンサイジングするだけでは、皆の心は、だんだん暗くなってくる。。。

そうではなくて、

地域で取りくむ新しい医療を、

いま以上に「向上」させ、日本のモデルとなるには、

充実した専門研修プログラム、すなわち「育成システム」を、「地域」で作り上げ、

若いやる気のある医師を、全国から集めることが必要不可欠だと思う。

別の機会に書かせて頂くが、

若いやる気のある先生が一人いるだけで、

どれだけ、医療現場の雰囲気が明るくなることか。。。

その図りしれないパワーと影響力には、日々、驚かされている。

地域でつくる専門研修プログラム。

そこには、科の専門性を越えた、

高度急性期から慢性期や在宅まで、いわゆる「地域包括ケア」の全てがある。

地域のみなさんで、若い先生方に教え、自分たちも成長する「醍醐味」があると思う。

私は、この3つがセットになれば、

多くのステークホルダーが前を向いて、「全体最適」に向かって動くことができると思う。

以上、「地域医療構想」の総論をまとめた。

「医師の働き方改革」および「新専門医制度」、そして「地域医療構想」の各論、

などについては、別の回に書かせて頂きたい思う。