第13回 「医師の働き方改革」と2020年度診療報酬改定  その1「地域医療体制確保加算」について

第13回 「医師の働き方改革」と2020年度診療報酬改定
その1「地域医療体制確保加算」について

新設された「地域医療体制確保加算」

「医師の働き方改革」に取り組んでいる救急病院にはインセンティブがつく。

2024年を期限とする「医師の働き方改革」に向けて、

国は本気である。と、ブログ第9回に書いた。

「もうお金がない」ので「地域でまとまってください」。ということである。

去る2月7日に、2020年度「診療報酬改定案」の答申が出された。

「答申」とは、大臣に「これでいいですか?」と問うもので、

3月の上旬には、大臣からの正式な「告示通知」が発布される。

したがって、詳細な点数などについては、

まだ「確定」はしていないが、基本的な枠組みはほぼ決定した。

482頁ある今回の答申のうち、

最初の55頁が、「医師の働き方改革」に充てられている。

なかでも、一番目の項目は、

「新設」された「地域医療体制確保加算」についてである。

この加算は、「救急病院」の勤務医の「働き方改革」を支援するものである。

内容としては、

一定の「施設基準」を満たす病院には、

患者さんが入院する際、初日のみ、所定点数に520点を加算してよい。

というものである。

簡単にまとめると、

  1. 救急車を2000台以上受けていて、
  2. かつ、「医師の働き方改革」にちゃんと取り組んでいる

ような病院には、

毎年の医療収入が、概ね「5000万円程度」増えるようにします。

というものである。

(年間1万人の入院→年間5200万円の加算)

これには、このたびの消費増税分があてがわれる。

救急病院はこのお金で、「医師の働き方改革」を進めてください、というものである。

お金の使い方は、

医師の確保、あるいはコメディカルや事務作業補助員の増員でも良いし、

業務効率化のためのシステム整備でも良い。

結果的に「医師の働き方改革」につながれば、どのような使い方でも良い。

改革のための「義務」

同時に、病院には、改革の「義務」が生じるため、これにより「医師の働き方改革」が大きく動き出すことになる。

上述の「医師の働き方改革」にちゃんと取り組んでいるというのは、

原文(http://wic-net.com/pdftmp/3666_90_3_1581202178.pdf#page=11)を要約すると、

  1. 医師の労務管理(勤怠管理など)がきっちりできている。
  2. 「医師の働き方改革」の多職種会議が開かれている。
  3. 多職種会議で、以下の項目を網羅した「計画」が策定されている。(ア) タスクシェア・シフトの具体的な内容
    (イ) 連続当直を行わない勤務体制
    (ウ) 勤務間インターバルの確保
    (エ) 予定手術前日の当直や夜勤に対する配慮
    (オ) 当直翌日の業務に対する配慮
    (カ) 交代勤務制・複数主治医性の実施
    (キ) 短時間正規雇用医師(育児・介護休業)の活用

となる。

これは加算請求するための「義務」である。

したがって「いい加減」では許されない。

もちろん約5000万円の収入増は、病院運営にとって有意義である。

しかし、これにより「医師の働き方」の全てが、改善するものでは、決してない。

しかし、次回以降に詳述するが、2020年度の診療報酬改定では、

その他にもたくさん、「医師の働き方改革」に関連する加算項目が設置された。

タスクシェア、タスクシフト、IT技術の利用、、、などなど、

これらに取り組めば取り組むほど、病院経営が改善するようになった。

逆に、病院は、「働き方改革」にしっかり取り組まなければ、経営が厳しくなる。

と同時に、病院には「働き方改革」にしっかり取り組む、「義務」が生じた。

国としては、この「義務化」、「強制力」こそが重要なのである。

否が応でも、

病院は、「手術前日の当直や夜勤に対する配慮」などに、取り組まねばならない。

そうなると、

どうしても、医師の労働力は減少する。

結局、地域での「集約化」が必要になる。

これは、

2024年の「医師の働き方改革」、2025年の「地域医療構想」の期限に先立って、

できるだけ早く、地域のでの「集約化」を進めてください、でないと間に合いませんよ。

というメッセージであろう。

国は本気である。

国の財政は本当に逼迫している。

今回、病院には「医師の働き方改革」を実行するための、

少々のインセンティブと、大きな「義務」が課された。

医師を集約化して、医療の「重複」や「過剰」を無くし、社会保障費を抑制する。

そのための、「強制力」を得るための、先行投資が、今回の診療報酬改定であろう。

私のような、現場の管理職から見ると、

病院の経営うんぬんより、医療の発展に欠かせない。

「医師の働き方改革」の本質は、

若い医師たちに、「余裕」を与えて、仕事の質を、肉体労働から頭脳労働へ変えること。

その結果、新しい地域医療のイノベーションを起こすこと。と思う。

彼らが、目の前の業務に忙殺されるのではなく、

自分の目で、今後の日本や世界のために、何ができるか、についてゆっくり考える。

そのような「育成」の機会を与える方策が、「医師の働き方改革」だと思う。

ブログ第8回第9回第10回を参照頂きたい。)

このような「育成」の「改革」が一歩でも前進することが嬉しい。

しかも、国から各種加算という「改革インセンティブ」を与えられながら、

少しでも安全に進められることは、非常にありがたいことと思う。

2020年度の診療報酬改定では、

その他にもたくさん、「医師の働き方改革」に関連する項目が設置された。

次回は、それらの詳細について、書かせていただく。