第15回 2020年度診療報酬改定の詳細

第15回 2020年度診療報酬改定の詳細

前回(第14回)では、

病院の大淘汰時代における2020年度診療報酬改定の位置づけについてまとめた。

国は、

  1. 働き方改革(2019年4月1日施行)
  2. 同一労働同一賃金(2020年4月1日施行)
  3. パワハラ防止法(2020年6月5日施行)
  4. 副業・兼業の促進に関するガイドライン(2018年1月)

の4つを、この先の数年で、一気に完成させようとしている。

したがって、病院は2024年4月1日までに、

雇用体制を改革し、管理職の意識改革も、合わせて進めなければならない。

この「改革」にかかるコストを支援するのが、2020年度の診療報酬改定だと思う。

以下に、診療報酬改定の中身を見てみたい。

地域医療体制確保加算

地域医療体制確保加算は、「医師の働き方改革」の取り組みそのものに加算がつく。

新設された地域医療体制確保加算については、ブログ第13回で詳しく述べた。

救急車を2000台以上受けていて、

「医師の働き方改革」にちゃんと取り組んでいる、

のであれば、患者さんの入院毎に、520点の加算を請求できるものである。

この加算の算定要件に、例えば、

  • 予定手術の前日は、当直や緊急呼び出しがない
  • 2交代制勤務になっている(夜勤の翌日は休日)

などが入っているため、

病院にとっては、救急体制の人員配置に、具体的に取り組まねばならない。

私見を述べると、

やはり「地域でまとまる」ことなく、

病院単独でこれを達成することは難しいと思う(ブログ第10回)。

いずれにせよ、

「医師の働き方改革」そのものへの取り組みに、点数がつくことになった。

休日・時間外・深夜加算

休日・時間外・深夜加算1は、以前から導入されているが、今回の地域医療体制確保加算を期に、これを取りに行くのが良いと思う。

これは、2020年度の改定ではなく、以前から設置されていたものであるが、

休日や深夜の当直や呼び出しなどで、医師が処置(手術)をした場合は、

従来から、処置(手術)料は、概ね80%増しになっている(休日・時間外・深夜加算2という)。

これに対し、

科として、あるいは病院全体で、

「医師の負担軽減に資する取り組み」を実施している場合は、

160%増しで請求可能となった。

このことが、平成26年度の診療報酬改定で行われた。

(160%増し=休日・時間外・深夜加算1という)

しかし、この160%増しの算定要件のハードルが高すぎて、

これまで多くの病院は請求できなかった。

160%増しの要件とは、

  1. 予定手術の前日は、当直や緊急呼び出しがない
  2. 2交代制勤務になっている(=夜勤明けは朝から帰宅できる)

などである。どこも人材不足につき、この要件は厳しかった。

ところが、2020年度診療報酬改定でも、

「地域医療体制確保加算」において、これと同様の取り組みが求められている。

したがって、多くの病院は、「地域でまとまる」ことも視野に入れて、

救急体制の人員配置をどうにか調整することが求められる。

その結果、

「地域医療体制確保加算」と「休日・時間外・深夜加算1」の両方を獲りにゆくべきと思う。

この2つにより、例えば3次救急施設のように、処置や手術の多い医療機関では、

優に1億円を越える規模の増収が見込まれる。

総合入院体制加算

総合入院体制加算の要件に「特定行為研修修了者である看護師」の活用が追加された。

「医師の負担軽減を評価する加算」の元祖と言えば、「総合入院体制加算」であろう。

これは、ざっくり言うと

  1. 総合病院にふさわしい実績を持っていること、
  2. 医師の負担軽減に取り組んでいること、

が算定要件であり、500床規模の病院であれば、1億円を越える追加報酬となる。

具体的な「医師の負担軽減に取り組んでいる」要件の一つとして、

「逆紹介率40%以上」が設定されている。

これは、退院患者さんの40%以上を、

連携先の「かかりつけ医」に戻している、という実績である。

「かかりつけ医」が中心となって、

地域全体で一人の患者さんの面倒をみなさい、という国の政策が反映されている。

この「総合入院体制加算」だが、

2020年度の診療報酬改定において、算定要件の施設基準が修正され、

新しい項目が、選択肢の一つとして追加された。

それは、「特定行為研修修了者である看護師の活用」である。

「特定行為研修修了者である看護師」とは、

例えば救急領域であれば、

人工呼吸器の設定変更や、

直接動脈穿刺による採血、

脱水に対する輸液補正、

などを、医師の指示下で、手順書により、実施できる看護師をいう。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077077.html

「特定行為研修修了者である看護師」は、まさにタスクシフトの象徴と言える。

このように、2020年度の診療報酬改定では、

「医師以外の職種が実働したほうが点数を算定できる」という潮流が鮮明になっている。

タスクシフトされる側への配慮

タスクシフトされる先の「看護師」やその他の「コメディカル」、および「事務職員」の負担軽減を配慮した加算が、軒並み点数アップした。

しかし実際の医療現場では、

医師からタスクをシフトされる先の「看護師」や、

その他、「コメディカル」や「事務職員」にとっては、

すでに日常業務で「いっぱいいっぱい」の状態であるのに、

タスクを医師から押し付けられても「困ります!」、という問題が発生している。

これを考慮して、2020年度の診療報酬改定では、

医師だけではなく、医療職「全体」の「働き方改革」が進められるように配慮されている。

医師事務作業補助体制整備加算

「医師の働き方改革」を進めたくても、なかなかクラークさんが確保できない現実がある。

これを受けて、「医師事務作業補助体制整備加算」は、今回、その点数が引き上げられた。

少しでも、クラークさんの給料や福利厚生を改善させ、

近隣の他医療機関との競合(人材の獲得競争)に負けないように、という加算である。

入退院支援加算

入退院支援をつかさどる「転院調整看護師(あるいは社会福祉士)」は、

日常臨床に欠かせない重要な役割を担っている。

しかし、その人材確保は、どの病院も苦労している。この実態を受けて、

今回、「入退院支援加算」の施設基準が改定された。

看護師(あるいは社会福祉士)は、

2名の「非常勤専従」をもって、

1名の「常勤専従」換算として良い、ということになった。

働き方が多様化し、かつ年齢も70歳まで働く時代である。

「非常勤でよければ貢献したいです」という人材を、

うまく組み合わせて有効活用しなさい、という国の意図が込められている。

急性期看護補助加算

また、看護師の負担軽減策として、

従来から「看護補助者(助手さん)」の配置が勧められてきた。

看護補助者は、看護師の指導下に、

患者さんの食事、清潔、排泄、入浴、移動等を世話し、

さらに病室内の環境整備、ベッドメーキング、等の業務を行う、重要な役割である。

しかし、どの病院も、この「看護補助者」の確保に苦労している。

これを受けて、

今回の改定では、「急性期看護補助加算」の点数が引き上げられ、

「看護補助者研修」の要件も簡素化された。

看護職員夜間配置加算

また、看護師の「夜勤者」を十分確保することも、病院として大きな課題である。

そのため、「看護職員夜間配置加算」も、その点数が引き上げられた。

同時に、この「看護職員夜間配置加算」には、

「夜間看護の負担軽減に資する取り組みを実施しなさい」、という要件が加わった。

たとえば、

「ねむりセンサー」や「インカム」などを活用することで、

夜勤業務が効率化され、看護師が少しでも楽に過ごせるようにと、

算定要件の施設基準に「ICT、AI、IoT等の活用」が明記された。

たしかに、

電子カルテに慣れた看護師さんは、

次の職場として、手書きカルテの病院には、少し抵抗を感じるだろう。

そういった意味で、ICT、AI、IoT等で仕事が便利になると、

看護師さんの、他の病院への流出を食い止める効果があるかもしれない。

「看護師」を確保することが、病院の生命線である。

そのためには、

「給与」や「福利厚生」の充実だけでなく、

「看護補助者」を確保して業務負担を軽減すること、

あるいは、仕事を「便利化」することで、同様に負担を軽減させるなど、

全体的な戦略で臨むように、という国からのメッセージである。

病棟薬剤業務実施加算

医師や看護師から、多くのタスクをシフトされる先は「薬剤師」である。

結果、「薬剤師」の業務負担増が懸念される。

これを受けて、「病棟薬剤業務実施加算」も点数引き上げが行われた。

これは、「病棟薬剤業務実施加算」や、「薬剤管理指導料」は、

もともと常勤の薬剤師2人以上の配置というのが条件であった。

しかし、2020年度診療報酬改定では、

常勤は一人、あとの一人は非常勤を二人以上組み合わせれば良いとして、

人材確保のハードルが下げられた。

前述の、入退院支援加算もそうであったが、

「非常勤を組み合わせて常勤換算にする」ことが、

他の多くの加算でも、今回の改定から盛り込まれることになった。

薬剤師について付け加えると、

2019年4月の「薬剤師法」改定により、例えば、

棚から薬を取って数を揃える業務は、他の職種(助手さんなど)でも良い、となった。

薬剤師に関する、この「対物業務から対人業務へ」という流れは、薬剤師の負担を軽減し、

結果、「医師の働き方改革」を後押しすることになる。

地域医療連携の強化に加算

大病院が「紹介」や「専門外来」に特化できるよう、「かかりつけ医」機能を強化するための加算が強化された。

(かかりつけ医)機能強化加算

八王子医療センターのような総合病院としては、

外来で、患者さんをできるだけ多く診てあげたい気持ちはあるが、

あまり殺到してしまうと、

医師や職員は忙殺され、本来の「専門性」を発揮できなくなる。

そこで、2020年度の診療報酬改定では、

大病院は、「紹介」や「専門外来」に特化しなさい。

そして、診療所や中小病院が、「一般外来」を担いなさい。

という「かかりつけ機能の強化」が、一層、進められることになった。

現状でも、「紹介状」なく専門医療機関を受診した場合は、

患者さんは、初診なら5000円の定額負担を強いられる(今後、増額される見込み)。

そのなかで、2020年の診療報酬改定においては、

診療所や中小病院は、

自院が「かかりつけ医」機能を持つこと、

つまり、自院を受診すれば、必要に応じて専門医療機関や大病院を紹介できることを、

掲示物や配布物、あるいはインターネットにより、

より「明確」に、患者さんに伝えなければならなくなった(機能強化加算の改定)。

これにより、国は「かかりつけ医」制度をさらに普及させたい意図がある。

結果、八王子医療センターのような総合病院の、

医師や職員の負担軽減が推進されることが、この加算の目的である。

以上、2020年度診療報酬改定の詳細についてまとめた。

次回(第16回)は、

大病院の医長クラス(中堅層)は、ガバナンスの中心で活躍するべき重要な人材である。

という内容で「中堅医師を中心としたマネージメントの重要性」というテーマで、まとめる。