第16回 中堅医師を中心としたマネージメントの重要性

第16回 中堅医師を中心としたマネージメントの重要性

今まさに、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、

多くの病院が、実際に取り組んでいることは、

「病院全体」の「共通認識」の構築であろう。

  • 病院を取りまく状況を知る(どの程度感染が拡大しているのか)
  • 病院の進むべき方向性や方針を知る(この病院が求められている役割を再確認する)
  • 具体的な対応策を知る(どの程度受け入れて、その際、どのような診療を行うのか)

などについて、「執行部」と「病院職員」が、

共通の認識を持つことが重要である。

しかし、これは、「言うは易し」で、実際はとても難しい。

おそらく、病院がやるべきことは、

とくに「中堅層」の職員をしっかり巻き込んで、

オープンな場で「議論」や「決断」を行うことであろう。

すなわち、

有事の際の危機管理能力は、情報のタテとヨコをつなぐ「中堅層」を、

どれくらい参画させられるか、にかかっていると思う。

私の言う「中堅層」とは、大病院における「医長」や「医局長」クラスを指す。

医療の大変革時代

医療の「大変革時代」は災害医療と似る。大勢を巻き込んだ情報共有が重要である。

いま、医療は「大変革時代」を迎えている。

このブログに書いてきたように、

  • 高齢化と人口減少
  • 生産年齢層の減少
  • 国の経済危機(国債の増加と医療費の枯渇)
  • 医師の働き方改革と地域医療構想(医師と病床の再配置)
  • 労働制度改革(同一労働同一賃金、パワハラ防止法、副業兼業の推進等)

などの課題を、第一線の現場職員を含め、

多くの病院職員が「理解」しない限り、病院は前に進まない。

しかも、勝負はこの先の「数年間」である。

この医療界の「混乱」に、大勢の病院職員が、「解らないまま」飲み込まれるのか、

いや、解ったうえで、自分たちで進むべき道を決められるのか、

あるいは、先んじて動き、日本をリードするような、変革モデルを作り出すのか、

今、まさに、その岐路に立っていると思う。

この「大変革時代」に際しては、

「執行部」と「中堅層」は、つねに行動を共にするべきと思う。

ブログ第12回で書いたように、

災害対応のように、将来が不安定で、先行きが不透明な時期は、

病院組織としては、とにかく、「執行部」が孤立してしまうことを避け、

大勢の職員を巻き込んで、オープンな「情報共有」と「意思決定」を心がけるべきと思う。

今まさに、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、

多くの病院が直面している課題も、同じである。

すなわち、多職種による「タスクフォース」を形成し、

日々、「執行部」と「タスクフォース」で、「情報共有」と「意思決定」を行うことになる。

「タスクフォース」とは、

「一つの大きな危機を乗り越えるための、

多職種からなる連帯チーム」を指す言葉であり、

構成員として、各部門の「現場レベルのリーダー」が必要である。

中堅層(医長クラス)の重要性

大病院では、医長クラスの「中堅層」が、トップと現場の橋渡しとして重要である。

組織には、まずトップがいる。

トップは基本的に、

ミッション・ビジョンを語ることが仕事であろう。

これからはこうなる、だから、我々はこの道を行く。

という、「方向づけ」をする。

では、そのミッション・ビジョンに基づいて、

今年度の計画、中長期の計画、という具体案を「作成」してゆくのは誰か?

一般的に、企業だけでなく病院も、これは「経営企画室」が担当する。

しかし、病院におけるこの「経営企画」作業には、

病院の大黒柱である「医師」が、十分に介入しなければならない。

とくに「中堅」クラスの医師がここに携わる必要があると、私は思う。

その理由は、

とくに大病院では、100名を超える医師のうち、

院長や副院長という「執行部」を構成するのは、ほんの数名である。

この数名から、現場の第一線で働く「実働医師」に、物事を伝えるのは、非常に難しい。

何か「やってほしい」ことがあっても、「執行部」から「実働医師」に、うまく伝わらない。

したがって、指揮命令の中継点として、

各科の「部長クラス」を登用する向きもあるが、

しかし、「部長クラス」は、

「実働医師」とかなり距離があることもあり、その場合は「橋渡し役」にはなり難い。

したがって、現実的には、「部長クラス」では、

「執行部」と「実働医師」の橋渡し的存在に、なりにくい。

代わりに、いわゆる「医長」あるいは「医局長」と呼ばれる立場の医師たちは、

「執行部」と「実働医師」の橋渡しに適していると、私は思う。

彼ら彼女らは、現場の「お兄さん」「お姉さん」だからである。

大病院には、各科ごとに「医局」があり、

そこに「医長」あるいは「医局長」がいる。

これらをまとめる、「医局会」(あるいは総医局会)のような存在を、

私は「中堅層=ミドルマネージャー」の象徴として、

病院運営の「核心」となる存在として、イメージしている。

ミドルアップダウン型マネージメント

ミドルマネージャーは、トップの「かくあるべき」という思考と、現場の「現実はこうだ」という思考を仲介し、組織の上下左右を連結させる。

病院の運営は、

トップが言ったことを、

例えば、「経営企画室」が策定してゆく、言語化する、という行程を経る。

その際、トップが言った言葉のなかに、当然、わからないこともある。

「院長、それはどういうことですか?」と尋ねる。

この「対話」のなかで、経営企画室のメンバーに、

その言語化した一つ一つの項目に対する、理解が深まってゆく。

その後、院内全体に対して、策定した「運営計画」公表する。

すると当然、経営企画室が院長に質問したのと同じように、

現場からいろんな質問が入ってくる。

これらの質問に、経営企画室が、きっちり解説、説明ができるようになっていること、

それが大事なのだと思う。

これを、トップが、ひとりで全部「言語化」してしまうと、

結局、現場からの質問は、全てトップに来てしまう。質問がトップに集中する。

そうなるとトップは、

「面倒くさいから黙って俺の言うことを聞け!」ということになり、

結果、説明不足になり、現場に浸透しない。

これが、トップダウン型のマネージメントの「負の特徴」だと思う。

これでは、現場の職員にとっては、「やらされてる感」の方が強くなる。

マネージメントのスタイルにはざっくりと3つあって、

  • トップダウン型、
  • ボトムアップ型
  • もう一つは、

  • ミドルアップダウンというのがある。

トップダウンといのは、トップが言ったことを現場に実行させる。

ボトムアップはその逆、現場職員がいろんな計画プランを立てて、それをトップに上げる。

ミドルアップダウンというのは、その「あいの子」で、

トップは夢を語り、そしてミドル層が、それを言語化、具現化、アクションプランを考え、それを第一線の職員(現場)に落とし込んでゆく。

私のイメージでは、

この大病院におけるミドル層は、まさに中堅医師の集まる「医局会」であり、

医局会での議論を、「経営企画室」が多角的にサポートするのが良いと思う。

この「ミドルアップダウン」を世界の経済界に提唱したのが、

野中郁次郎という日本の経済学者である。

野中氏は、著書「知識創造企業」で、次のようなことを述べている。

ミドルアップダウン型において、

トップは、ビジョンや夢を描くが、

ミドル層は、第一線職員(現場職員)が理解でき、

実行に移せるような、具体的な「言語化」を行う。

ミドル層は、トップの「かくあるべき」という思考と、

第一線職員の「現実はこうだ」という思考を仲介するのである。

また逆に、

第一線職員ならでわの「暗黙知」を吸い上げ、

病院全体の「形式知」に変換するのも、ミドル層である。

第一線職員は目の前の業務に忙殺され、

「大局観」を持つことが難しく、せっかくの「暗黙知」をうまく発展させられない。

しかし、ミドル層が、「大局観」をもって

これを「形式知」に変換し、第一線職員とともにイノベーションとして世に発信すれば、

それはまさに、組織の「知識創造」となる。

このようにミドル層は、

病院情報のタテとヨコの流れが交差する場所に陣取って、

個々の努力を結び付け、組織が確実に社会貢献を果たすための、中心的役目を負っている。

変革推進タスクフォースト

医療の「大変革時代」は特に、「中堅層」を活躍が、組織浮沈のカギとなるだろう。

野中氏によれば、

日本の企業が、戦後の危機を乗り越え、

復興に打って出たときの、組織マネージメントの形の多くは、

ミドルアップダウンだった、とのことである。

決して温故知新ばかりを推奨するわけではないが、

しかし、「トップダウン型」があまり馴染まない日本人には、

ミドルアップダウン型がフィットすると、私も思う。

実際、八王子医療センターの救命救急センターも、

私は「方向性」を示してきたが、

実務の多くは、ミドルマネージャターたちが仕切ってきてくれた。

まさに、若い力が自立する、ミドルアップダウン型だったと思う。

この先の、医療の「大変革時代」を生き残るために、

特に500床クラスの大病院は、

中堅世代(医長ら)を、

「変革推進タスクフォース」として最大限「活躍」させるような、

ミドルアップダウン体制で取り組むのが、良いのではないか。