第19回 若手医師の獲得戦略 その2「他医への献身」について

若手医師の獲得戦略 その2「他医への献身」について

前回のブログ第18回では、

若手医師獲得の第一戦略として、上司による「部下への献身」を掲げた。

ここでは、勝手ながら、次に大事と思うことを書く。

それは、上司による「他医への献身」はないか。

 

「他医」とは、

他科の医師や、他院の医師、など、

つまり、自らの業務の「前後工程」を担う医師、のことである。

 

上司が、

自身の専門性を追求するだけでなく、

前後工程を担う「他医」への献身を貫こうとして、

本気で真剣に取り組んでいるとき、

若い医師は、「この先生と一緒に仕事をしたい」と集まってくる。と私は思う。

今回は、このことについて書かせていただく。

 

私が、現場医療に没頭していたころ

ここが私の仕事のハイライト、と思った場面は、

「診療情報提供書」を書いているときであった。

急な病気を患って、救急車で運ばれてきた患者さんの命を、

どうにか救って、専門治療をやり終えることができたとする。

しかし、ここからが「リハビリ」という重要なステップである。

リハビリが「いい加減」なら、社会復帰はできない。

また、社会復帰後も、継続して往診医などに診てもらう必要がある。

つまり、私の役割は、

この先、何度も何度もバトンタッチされてゆく医療の、

最初の担当者として、

「次の医療者」に、しっかりとした診療情報を提供し、

「よろしくお願いします」と、バトンを渡すことである。

 

日本の医療体制において、

人は、病気を患ったら、病院に入院する。

そこで治療やリハビリを受けて、家に帰る。

これを「旅」になぞらえて「patient journey」と呼ぶ。

高度急性期病院から在宅診療まで、

「地域」の中で患者さんの「旅」は続く。

 

私は、これまで人生の終末期の多くの患者さんを、見送ってきた。

病気はつらい。

人生の最後は「旅」の連続である、と思い知らされるそうである。

しかし、苦しさの中にも、得られるものがあるらしい。

極端な話、人は「喜び」の中で人生を終えることすら、できる。

我々、医師は、患者さんの旅程の「全て」をみることはできない。

しかし、チームワークで、旅の喜びをお手伝いすることは、できる。

 

温泉旅行に例えると、

  1. 受付の女性が、気持ちよく迎えてくれた(救急医療)
  2. 仲居さんが、親切にしてくれた(専門的医療)
  3. 風呂係りのおばさんが、丁寧に掃除をしてくれた(回復期医療)
  4. 料理人が、おいしいご飯を提供してくれた(慢性期医療)
  5. アルバイトのお兄さんが、布団を丁寧に敷いてくれた(在宅医療)
  6. 出発の際に、皆でお見送りに出てきてくれた(地域医療の全体像)

これらが繋がって、はじめて「patient journey」が成立する。

 

若い医師たちは、

「独りよがり」で、ただ、実力をつけたい、と思っているわけではない。

地域の一員として、「patient journey」の質向上に、貢献したいのである。

自分の担当箇所だけ出張っても、それは「自己満足」であろう。

医療者の本当の喜びは、

「patient journey」全体の価値が高まり、患者さんが豊かに暮らすことである。

若い医師の心には、そういった「直感的洞察力」がある。

スポーツでも企業活動でも同じ。

当たり前といえばあたり前であるが、

自分が属するチームが、チームとして機能したときに、本来の目的が達成される。

サッカーチームで、自分だけ上手くても、

チームが勝てないようでは、お山の大将になってしまう。

しかし、残念ながら、医療の世界には、

独善的で、「patient journey」の全体が見えていない医師が多いのも事実である。

それでも「専門家」としての立場は保障されるだろう。

しかし、そのような上司の元には、若い医師は、集まってこない。

どんなに「勧誘」をしようとも、そこには、洞察力のある医師は集まってこない。

 

では、どうすれば、若手医師が集まるのか?

その答えは、「他医への献身」である。と私は思う。

 

温泉旅館で、

お客さんの素晴らしい旅を創るためには、

まず、他の従業員を大切にするべきである。

あなたが「布団敷き係」だとしたら、

「仲居さん」や「料理人」から、

何か頼まれたときは、疲れていても「はい喜んで」と引き受ける。

逆に、何かを依頼するときは、心から感謝を込めて、

「よろしくお願いします」と引き継ぐ。

そうやって、従業員同士が、支え合い、信頼し、助け合うことで、

初めて旅館のサービスがつながり、「温かさ」が生まれ、結果的に顧客満足度が上がる。

このような「自分の前後工程に最大限の敬意を払うこと」は、

生き残りをかけた顧客サービスの世界では、「当たり前」のことである。

しかし、医療の世界では、

これまで、危機感の少ない、半公的な業界であったためか、

本当の患者アウトカムを追求しようとしない、独善的な医師の姿も見受けられた。

 

医師に求められている仕事は、

「専門性の発揮」だけではなく、

「前後工程とのスムーズな連結」である。

それによってはじめて「patient journey」の価値向上へ貢献することができる。

 

具体的には、

同じ病院の「他科の医師」に対する献身。

地域の「連携病院の医師」に対する献身。

患者さんを運んでくる「救急隊員」に対する献身。

すなわち、

同業の他者が困っているなら、自身の損得を顧みず、助けに行かねばならない。

それは、実力のある医師であればあるほど、求められている。

 

その医師にしかできないスキルがあればあるほど、

「他医への献身」が求められ、

それを惜しむことで、その医師の人的評価は、逆に下がる。

 

若い医師は、

“この先生は、その高い専門性を、自己の利益のために使っていない”

“この先生は、その力によって、本当の社会貢献を果たそうとしている”

という「安心感」を以って、この先生に師事しようと、心を決めるのだと思う。

 

まとめると、

若手医師の獲得戦略、その第2ポイントは、

「他医への献身」である。

ともに「patient journey」を創る、「他医」への献身である。

上司が、患者さんの「patient journey」を真剣に考え、

地域医療の一員として、「他医へ献身」する姿勢を示したとき、

「私も一緒にやります」と、多くの若手医師が集まってくるのだと、私は思う。

 

以上、

若手医師の獲得戦略について、

1、2で内面的なポイントについて書いた。

次回の、ブログ第20回「若手医師の獲得戦略 その3」では、

1、2の土台に基づき、よりテクニカルな要素について、私見をまとめたいと思う。