- 南多摩医療圏の特徴
南多摩医療圏は相対的医療過疎である。 - 新専門医制度について
「新専門医制度」は、従来の医局制度を補足するべく、地方や郊外の医療機関が、「現地採用」を行うための制度である。 - 「現地採用」の困難さ
人材獲得は、そこに全力を注がない限り、向こうからやってくることはない。 - 新専門医制度の本当の目的
地域全体で育てた若手医師が、地域に残り、次世代の「育成」に取り組む。それが「新専門医制度」の究極の目的であろう。
(以下本文:5〜6分程度でお読みいただけます)
第11回 新専門医制度について
南多摩医療圏の特徴
南多摩医療圏は相対的医療過疎である。
東京医大八王子医療センターは、東京都に12ある二次医療圏のうち、
「南多摩医療圏(八王子市、町田市、日野市、多摩市、稲城市)」に属する。
![南多摩医療圏 出展:地域医療情報システム(日本医師会)](https://araitakao.com/araitakao/wp-content/uploads/2020/02/6043-01.jpg)
南多摩医療圏の人口は約140万人で東京都の医療圏では第2位である。
例えば、都道府県の人口をみると
岩手県が約120万人、
島根県が約70万人、
高知県が約80万人、
であることから、
「南多摩医療圏」の規模が非常に大きいことがわかる。
しかも今後の「南多摩医療圏」の人口推移は、
図2のように、2025年まで増え続け、
2040年に至っても、2010年に比し95.3%の減にとどまる。
![東京都HP「東京都の地域医療構想」の数値をもとに著者作成](https://araitakao.com/araitakao/wp-content/uploads/2020/02/6043-02.jpg)
出展:東京都HP「東京都の地域医療構想」の数値をもとに著者作成
これは、日本全体の人口減少が図3のように急峻であるのに対して、
南多摩医療圏は「人口が当分維持される」という、大きな特徴を表している。
出展:総務省統計局HPの数値より著者作
![総務省統計局HPの数値より著者作](https://araitakao.com/araitakao/wp-content/uploads/2020/02/6043-03.jpg)
(2040年には、2010年比で87.3%の減少が予測される)
この南多摩医療圏に、「医師が足りているか否か?」と聞かれたら、
データからも、実感としても、「足りていない」と答えざるを得ない。
「東京都への医師集中」が問題視されている昨今ではあるが、
それは、「東京都」というより、「都心(23区)」の意味であろう。
南多摩医療圏は、逆に、「相対的医療過疎」に陥っている。
日本医師会の「地域医療情報システム」によると
南多摩医療圏における「人口10万人に対する医師数」は、196.17人であった。
これに関する他の地域との比較データを図4に示す。
![日本医師会「地域医療情報システム」(グラフは著者による)](https://araitakao.com/araitakao/wp-content/uploads/2020/02/6043-04.jpg)
出展:日本医師会「地域医療情報システム」(グラフは著者による)
このデータからわかるように、
南多摩医療圏は、東京都にありながら、
全国平均や、同規模の他県より、人口に対する医師数が少ない。
私の実感としても、「若い医師は、より都心に向かっている。」
そこに輪をかけて、
上述のごとく、南多摩医療圏は、人口減少速度が「遅い」ので、
医療需要は「高い」まま「維持」される。
実際、地域医療構想では(第7回参照)、
全国的には、多くの二次医療圏で、病床の「削減」が求められるなか、
2025年の南多摩医療圏の必要病床数は、今より多く見積もられている(図5)。
![東京都HP「東京都の地域医療構想」の数値をもとに著者作成](https://araitakao.com/araitakao/wp-content/uploads/2020/02/6043-05.jpg)
つまり、このまま医師不足が解消されなければ、
「相対的医療過疎」は、さらに悪化することになるだろう。
最後のトドメは、
2024年を期限とした「医師の働き方改革」である。
医師の労働時間が大幅に減少することで、「相対的医療過疎」はさらに悪化する。
結局、いつもと同じ話になってしまうが、
この状況に対して、我々は「地域でまとまって」対応するしかない。
では、地域でどのようにまとまるのか?
その答えの一つが、「新専門医制度」であろう。
新専門医制度について
「新専門医制度」は、従来の医局制度を補足するべく、地方や郊外の医療機関が、「現地採用」を行うための制度である。
新専門医制度とは、従来の「医局制度」では補い切れない、
「地域への医師の供給」を目的としている、と私は解釈している。
「医局制度」とはどのような制度か。
![池上直己「医療・介護を読み解く(日経文庫)」一部改](https://araitakao.com/araitakao/wp-content/uploads/2020/02/6043-06.jpg)
出展:池上直己「医療・介護を読み解く(日経文庫)」一部改
医局制度とは、
大学病院の内科が、例えば、第1から第3内科の講座に分かれ、
それぞれが関連病院を持っている(図6)。
新人医師が「入局」すると、
大学病院と関連病院(A,B,C,D)をローテーションして、研修する。
研修終了後も、独立開業しない限り、
その医師は、大学病院か関連病院(A,B,C,D)の、どちらかに勤務する。
背景として、大学病院は、卒業生の活躍できるような優良な病院を確保したい。
関連病院(A,B,C,D)は、専門性の高い医師を、必要とする。
そういった両者の利害が一致する形で、「医局制度」が発展してきた。
しかし、
「医局制度」だけでは「地域への医師供給」が不十分になったため、
「新専門医制度」が立ち上がったと、私は解釈している。
具体的には、
![東京医大病院(本院)と八王子医療センターの関係](https://araitakao.com/araitakao/wp-content/uploads/2020/02/6043-07.jpg)
図7のように、
従来通り、大学病院「医局」からの派遣先として八王子医療センターがある。
それに加えて、
八王子医療センターが地域の『基幹研修施設」となり、
地元病院(X,Y,Z)に若手医師を派遣する。
この2段構えが、「新専門医制度」である。
どういうことかと言うと、
![ハイブリッドの「採用ルート」](https://araitakao.com/araitakao/wp-content/uploads/2020/02/6043-08.jpg)
新専門医制度では、
大学医局からの派遣ルートに加えて、
八王子医療センター独自に、「現地採用」することができる。
この新専門医制度により、
地域の基幹病院は、若手医師採用について
「ハイブリッド」のルートを得たことになり、
より独自性の高い、地域に根差した「人材育成」が可能となった(図8)。
「現地採用」の困難さ
人材獲得は、そこに全力を注がない限り、向こうからやってくることはない。
ところが、
「新専門医制度」が立ち上がり3年経った今も、
地域への医師定着は思わしくなく、「都心への一極集中」が目立っている。
これは、とりもなおさず、
郊外や地方の基幹研修施設にとって、現地採用は容易ではないことを意味している。
郊外や地方では、軒並み、大幅な「定員割れ」が発生している。
八王子医療センターのような、地方や郊外の「研修基幹施設」は、
今後、大学本院の医局以上の魅力を発信しなければ、その存続が難しいだろう。
「育成」は、そこに全力を注がない限り、向こうからやってくることはないと思う。
まず、相手を知り、相手の目的を知れば、
納得のいく「育成」ができるような気がする。
各人の「想い」に合わせて、精一杯の「機会の提供」を行うべきだろう。
「機会」とは、
「学びの機会」、
「実践の機会」、
「振り返りの機会」、
「後輩を教育する機会」など、全ての「機会」である。
「育成」や「若手獲得」については
第3回や第17回、第18回、第19回、第20回、第21回等に詳しく書いたが、
そこに全力を注がない限り、人材が向こうからやってくることはない。
結局、人が全てである。
失敗してもくじけず、そこに全力を注ぐ以外に、他に方法はないと思う。
新専門医制度の本当の目的
地域全体で育てた若手医師が、地域に残り、次世代の「育成」に取り組む。それが「新専門医制度」の究極の目的であろう。
私の意見としては、
八王子医療センターのような地域の基幹病院は、
「新専門医制度」において、
内科、外科、救急科だけではなく、
基本領域のほとんど全科が、今後「基幹研修プログラム」を持つべきだと思う。
大学医局との関係を保ちつつ、
現地採用を併せた「ハイブリッド」の人材採用システムを構築し、
安定した人材確保戦略を展開するべきと思う(図9)。
![東京医大病院(本院)と八王子医療センターの関係](https://araitakao.com/araitakao/wp-content/uploads/2020/02/6043-09.jpg)
どの科も、最初は、「現地採用」は困難が予測され、大幅な「定員割れ」になるだろう。
しかし、何年かけてでも、「自力採用」できる底力をつけるべきだと思う。
それにより、医療レベルも向上すると思う。
図9でいう八王子医療センターと連携病院(X,Y,Z)が、地域全体で力を合わせて、
実力ある若手を「育成」することは、決して不可能ではないと思う。
若い専攻医が、「地域」の医療・介護施設をラウンドした結果、
そこから生まれる「人的交流」は、「地域連携」の大きなファクターになるだろう。
若いやる気のある医師が、そこに一人いるだけで、
地域の雰囲気がどれだけ明るくなるか。彼ら(彼女ら)は驚くようなパワーを持っている。
「育成」の本質は、自分を超える、有能な人材の輩出だと私は思っている。
地域医療の現場(図のX、Y、Z)には、そういう「育成」のできる、
愛情豊かな、心に余裕のある、ベテランの医師が大勢いる。
地域全体で育てた若手医師が、地域に残ってくれて、次世代の「育成」に取り組む。
こうやって地域医療を発展させてゆくことが、「新専門医制度」の本当の意義であろう。
とくに八王子医療センターは、
新しい地域医療を発展させるために、その「船頭」の役割を担っていると思う。